2022年02月22日

平和

中国語では、「平和」のことを「和平」と書くのだと最近知った。

「平和」という言葉は中国語から来たのだろうと漠然と想像はしていたが、なぜ「和平」ではなく「平和」となったのか。

『Yahoo!知恵袋』で回答している方がいらした。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1033603935?__ysp=5bmz5ZKM44Gu6Kqe5rqQ

なるほど。明治時代とは、わりと新しい。この頃、「自然(しぜん)」とか「美術」とかいう言葉もうまれたのではなかったか。明治時代の人たちが頑張ったおかげで、日本人は高度な学問も母語で学ぶことができるのである。ありがたいことである。しかし最近の日本人はさぼっているらしく、英語そのままとか、英語風な和製英語を使うことが少なくないようだ。

もう十年以上前のことになるが、私は日系ブラジル人の若い女性と机を並べて仕事をしていたことがある。ある日、その人が「ノート」のことを「帳面」と言った。

私は衝撃を受けた。「ノート」には「帳面」という日本の言葉があったのだ! すっかり忘れていた。たぶん私の祖母は、あの紙を綴じたもののことを「帳面」と呼んでいたと思う。しかしいつからか誰もが「ノート」と言うようになってしまった。さみしいことである。

話を「平和」に戻す。

ロシア語で「平和」は「мир」という。

森村桂著『ソビエトってどんな国』という本がある。






著者はテレビ番組の取材でソ連を訪れることになる。1983年。著者はソ連を「こわい」と思っている。1983年の頃の私も「ソ連はこわい」と思っていた。たぶん私のまわりの人たちも……。

著者と通訳係のソーニャとの会話。一行はモスクワの地下鉄を訪れている。著者は地下鉄内の壁画の中にある、とある文字列に注目した。

「この、МИРっていうのは?」
 その同じ言葉がいくつもある。
「ミール、ミール、ミール。平和という意味です。それと、世界という意味あります」
「え、待って、平和と世界という言葉、同じなの?」
「そうです。ソビエト人は、世界が平和でなければ真の平和でないこと知っていますから」
「世界とはどういう意味? ソビエトという世界?」
「いえ、ちがいます。地球全体です」
「ソーニャ、それは本当なの? だったら世界が平和でないかぎり、ソビエトは平和でないということをソビエトの人たちは知っているということなの」
 ソーニャはまっすぐ私をみてうなずいた。
「その通りです。世界が平和でなければ、ソビエトに平和ありません」
 私はなんともいえない感動で胸が一杯になった。

(森村桂『ソビエトってどんな国』55〜56ページ)

実際には、この頃のソ連がとても平和だったというわけではないけれども、「平和」と「世界」が同じ単語の言語の話者、異なる単語の言語の話者では、この二つの概念の捉え方が違っていても不思議ではないと思う。最近よく耳にするようになった言葉だが、「世界観」が違ってくるのではないか。(「世界観」という言葉、昔はあまり使わなかったような? なんで今、流行ってるの?)

どの国も、自国が戦場になった時のことはよく覚えていて、あれを思い出したらもう二度と戦争は嫌だと思うものだろう。でも、自国が戦場になるわけではなく自国から遠いのなら、戦争したい国というのはあるらしい。お金儲けになるからね……。それから、研究の成果を実地で試したい人たちもいるのかもね……。

ロシア語ではさらに「свет」という言葉も「世界」を意味する。「свет」のもう一つの意味は「光」だ。

つまり、ロシア語話者にとって「世界」は「平和」で「光」なのである。

私にとって自分の周りの「世界」はまあまあ「平和」だったが、遠いところに目をやると、そこは平和ではなく、光もない。自分の周りのまあまあ「平和」な「世界」も、光に満ちているわけではない。「世界」は「平和」で「光」であるのが本来の姿なのだと思えるようになりたいなあ……。

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ラベル:ロシア語
posted by ごー at 08:01| Comment(0) | 日本語とロシア語 | 更新情報をチェックする

2022年02月11日

クロパトキン

私はペンザ在住のピューマのメッシが大好きで、毎日YouTubeでメッシの動画を見ている。メッシを見ている時だけが幸せ。

最近のお気に入り。毎日見ている↓



サーシャが車庫へ作業しに行ったら、メッシは不安になってしまう。そして雪の中、自ら外に出てサーシャを探しにいく。涙と笑顔なしには見られない。

私は自分の思う理想の家族を、この一家の中に見ているのだと思う。

私が子供時代からやり直せるなら、メッシのように「お父さんありがとう」の気持ちを全身で表現して、お母さんの言うことはよく聞く子供になりたい。私に子供がいたら、サーシャとマーシャのように、できるかぎり最良の環境を子供に与え、よい学校に通わせ、しつけはちゃんとするけれども、毎日「かわいい、かっこいい、かしこい」と言ってあげたい。

メッシのお散歩動画も楽しい。見ていると一緒にお散歩している気分になれる。



降り積もった新雪の中を、ラッセル車のように進んでいくメッシ。

鳥の群れが飛んでいくのを見て、サーシャが

О, куропатки! Видели?

と言う。куропаткиというのは鳥の名前かな?

辞書を見たら、
куропатка
〘鳥〙シャコ⦅キジ科⦆;その肉

(研究社露和辞典)
とある。

「シャコ」って、時々お寿司にされてしまう、エビに似たあの生き物しか知らなかった。

辞書にはさらに、

белая к. ヌマライチョウ
пустынная к. ヒメイワシャコ
тундреная к. ライチョウ


と書いてある。「ライチョウ」と言われれば、なんとなく姿が思い浮かぶ。首がほっそりしていて、体が丸くて。

幼少時、母がお手玉をして見せてくれる時、必ず歌うのが『日露戦争数え歌』だった。

いちれつだんぱんはれつして にちろのせんそうはじまった
さっさとにげるはロシアの兵 しんでもまもるは日本の兵


今思うと、なんとも失礼な歌である。死んで守ったロシア兵もたくさんいただろうに。どの兵士も、誰かの息子、夫、お父さん、兄、弟。戦争なんかで死んではいけない。戦争いらない!

母が歌いながらお手玉をしている時、そばで見ていた父が、
「『だんぱん(談判)』は破裂しないだろう。そこは『らんかん(欄干)』だろう」
と言っていたことを思い出す。

母は
「私は『だんぱん』と習いました」と言っていた。

さて、この歌の中に「クロパトキン」という外国人の名前が出てくるのだった。

研究社露和で見てみると、

Куропаткин, Алексей Николаевич クロパトキン⦅1848-1925;陸軍大将;陸相(1898-1904);日露戦争では満州軍総司令官;奉天会戦の敗北で解任⦆.


と書かれている。なるほど、あの人の名字には鳥の名前が含まれていたのだと、今になって私は知ったのである。

いまどきの子供は、どんな歌を歌いながらお手玉をするのだろう?

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posted by ごー at 08:57| Comment(0) | ロシア語 | 更新情報をチェックする

2022年02月01日

レオニード・クラヴリョフ

1月30日、ロシアの俳優、レオニード・クラヴリョフ(Куравлёв, Леонид Вячеславович)が亡くなった。85歳。

私が初めて見たのは『Вий』(1967)だった。学校の授業で。クラヴリョフは妖怪と対決する若い僧侶を演じている。








この映画は、ニコライ・ゴーゴリの小説を映画化したもの。私はまだ原作を読んでいない。まったく勉強不足のめんどくさがりだ……。






何度も見たのは『Иван Васильевич меняет профессию』(1973)。



この映画でクラヴリョフは、アパート管理人のイヴァン・ヴァシーリエヴィチと一緒に、タイムマシンでイヴァン雷帝の時代に行ってしまう空き巣を演じている。詐欺師の空き巣だから、口がうまくて堂々としたところがある。スウェーデン大使にボールペンをあげて喜ばれたり。

この映画は音楽が楽しい。劇中歌も楽しい。きれいな女の子がたくさん出てきて楽しい。

原作はミハイル・ブルガーコフ。






私は『Иван Васильевич меняет профессию』を何度も見ていて、そこでは時が止まり、俳優たちはいつもその時の姿のままで生きている。でも現実世界ではいつのまにか時間は過ぎていて、みな年をとりこの世から去っていく。例外なく。私もね。さみしいね。

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ラベル:映画 ロシア語
posted by ごー at 04:17| Comment(0) | ロシア語 | 更新情報をチェックする